数億円規模の大型新築工事が始まりました。
本体工事の前に、まずやるのが「仮設電気工事」です。
今回はその中の一つ、ケーブル通線作業の話を書きます。
仮設電気工事とは
建設現場に電気がなければ何も始まりません。
照明、コンセント、溶接機、揚重機。すべてに電気が要ります。
仮設電気工事とは、工事期間中に使うための「仮の電気設備」を作る工事のことです。
電力会社から低圧で引き込み、現場内に分電盤を設置して、各所に電気を送ります。
工事が終われば撤去します。だから「仮設」です。
低圧引込の全体像
今回の仮設電気の構成はこうなっています。
引込柱に低圧で直接引き込みます。
電灯と動力、それぞれ独立した2回線です。
各回線ごとに電力量計と開閉器盤がつきます。
- 電灯回線(CVT60SQ):仮設事務所の照明・コンセント・エアコン等
- 動力回線(CVT38SQ):溶接機・揚重機・コンプレッサ等の工事用電源
各開閉器盤から分電盤までは露出配管で敷設します。
今回の通線作業は、この電灯回線CVT60SQの約100mです。
ケーブルジャッキのセット
通線の起点はケーブルドラムです。
木製のドラムにCVT60SQが巻かれています。重量は数百kg。
これを回転させるのがケーブルジャッキです。
ドラムの芯棒にジャッキをセットすると、ドラムが自由に回転します。
引っ張られる力に応じてスムーズにケーブルが繰り出される仕組みです。
ジャッキがないと、ドラムが地面に引っかかって回りません。
通線作業の基本中の基本です。ここに1人つきます。
CVT60SQとFEP管
CVTとは架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブルのことです。
60SQは導体の断面積が60mm²という意味。3心で約2.9kg/m。
100mだと総重量は約290kg。かなり重いです。
このケーブルを通すのがFEP管です。
正式名称は「波付硬質合成樹脂管」。地中埋設用の保護管で、表面が波状になっています。
可とう性があるので、多少の曲がりにも対応できます。
今回はFEP50(内径約42mm)を使用しました。
528kgの摩擦。計算で出した通線の現実
ここが今回の核心です。
CVT60SQをFEP50の中に100m通します。しかも曲がりが3箇所あります。
ケーブルを管の中で引っ張るとき、摩擦が発生します。
直線部だけでも約995N(ニュートン)。これだけで約100kgの力です。
問題は曲がりです。
90°の曲がりを1箇所通過するたびに、摩擦は約1.73倍に跳ね上がります。
3箇所通すと1.73の3乗、つまり約5.2倍。
995N × 5.2 = 約5,176N(約528kgf)
528kg。大人8人が全力で引っ張るのと同じ力が必要になります。
これを管の中で、ケーブルを傷つけずにやらなければなりません。
金車とコロで摩擦を4分の1に
ここで活躍するのが金車(かなぐるま)とコロです。
曲がり部分にローラー付きのガイドを設置して、ケーブルが滑るようにします。
金車を入れると曲がり部の摩擦係数が激減します。
結果、必要な張力はこうなります。
金車なし:約5.2kN(528kg相当)
金車あり:約1.3kN(128kg相当)
4分の1以下。528kgが128kgになります。
この差が、少人数で作業できるかどうかの分かれ目です。
100m先との連携。トランシーバーが命綱
通線作業は「引く側」と「送る側」の連携が命です。
100m離れた相手の声は、現場の騒音で聞こえません。
だからトランシーバーを使います。
合図が正確に伝わらないと、ケーブルに無理な力がかかります。
最悪、被覆を傷つけて絶縁不良。やり直しです。
合図者を1人配置して、引く側と送る側の中継をします。
ケーブルウィンチで528kgを制御する
引っ張るのは人力ではありません。ケーブルウィンチを使います。
正逆転可能で、瞬間ブレーキ機構付き。
引きすぎたら即停止、戻しもできます。
金車で摩擦を1.3kNまで落としてあるから、5kNのウィンチなら余裕を持って制御できます。
13kgのウィンチ1台で、290kgのケーブルを100m引けます。道具の力は偉大です。
たった3人で完結する
ドラム側に1人、合図者1人、ウィンチ側に1人。
528kg相当の摩擦を制御して、100mの通線を完了させます。
金車の設置、ウィンチの選定、合図の段取り。事前の準備がすべてです。
雨の中の作業でしたが、問題なく完了しました。
ちなみに本日は盤製作や盤取り付けも含め計7名で作業を行いました。
次回は仮設分電盤の製作・設置や、分電盤2次側配線について書きます。